油彩画の修復とは──クリーニングと補彩、そして「どこまで直すか」

筆で油彩画の表面をクリーニングする様子 授業紹介

修復を終えた油彩画を前に、「これで修復をしたのですか?」と問われることがあります。補修した欠損箇所は見え、剥がれ落ちた絵具は失われたまま残っていることも少なくありません。修復とは、作品を制作当初の姿に戻す作業ではありません。長い歴史の中で受けた変化を受け入れながら、それ以上の劣化を抑える。油彩画の修復は、その考え方の上に立っています。

油彩画の修復で行う二つの処置は何か

油彩画修復の中心にあるのは、表面の汚れを取り除く「クリーニング」と、失われた絵具の箇所に色を補う「補彩」の二つです。東洋美術学校の保存修復科では、この二つの処置を軸に油彩画の修復を学びます。

クリーニングでは、制作当初の色彩を見えにくくしている古いワニスが問題になります。ワニスは作品の一部でありながら、除去すべき要素とみなされる場合があります。近年、修復によって作品の様子が大きく変わってしまった国内外の事例が話題になりました。授業ではそうした事例も題材にしながら、実際の修復が目指す作品の姿を考えていきます。

白衣と手袋で絵画をクリーニングする作業

「作品の本来の姿」とは、どの時点を指すのか

古いワニスを除こうとするとき、必ず立ち止まる問いがあります。「本来の姿」とはいつの状態を指すのか、という問いです。

人が一生の中で少しずつ姿を変えながら生きるように、作品にも各時代との関係が積み重なっています。そのうちのどの時代を取り出すのかという判断は、簡単ではありません。大きく絵具の失われた作品に、損傷前の画像を使って復元できる状況があったとしても、「どこまで介入するのか」という問いは残り続けます。授業では修復という行為そのものを見つめ直し、自分の修復観を育てていきます。

修復対象となる油彩画の画面
修復対象の油彩画の画面(拡大)

何をどこまで取るのか──目視に頼らない客観評価

クリーニングの「何をどこまで取るのか」という判断は、目で見るだけでは足りません。

紫外線や3D形状計測器なども併用し、客観的な評価を重ねていきます。過程は記録に残し、表面に堆積した汚れの除去とワニスの軽減洗浄によって作品本来の色調が見やすくなったことを、処置の前後で確かめます。講義では簡単な反応式も扱い、実務の背景にある理論の理解につなげていきます。

化学式が書かれた保存科学のホワイトボード

作業者と作品を、どう守るか

クリーニングでは道具や薬品を扱うため、不意の事故を避ける手順が欠かせません。

作品と道具類は、必ず何かで隔てて使用します。手袋やマスクを使い、作業時間と薬品への接触リスクを抑えることも、処置と同じ重みで考えます。作品を守ることと、作業者自身の健康を守ることは切り離せません。

いつ学ぶのか──3年間の積み上げ

油彩画の修復は、学年を追って段階的に学んでいきます。

1年次の「油彩画演習(基礎)」では、作品の制作は行いません。油彩画がどのような素材で描かれ、歴史的にどんな変遷と技術的発展をたどり、保存上どんな問題を抱えるのかを中心に学びます。2年次の「油彩画修復基礎」では、クリーニングと補彩の処置を扱います。そして3年次の「油彩画保存修復」で、状態調査や光学調査を通して油彩画の構造と劣化を理解し、保存方法や修復方針を立案できる力を養います。油彩画修復は、講師の武田恵理先生が担当します(武田先生のインタビュー記事)。

額装された作品に筆を入れる修復作業

保存修復科で学べること

油彩画は、東洋美術学校 保存修復科が扱う分野の一つです。

保存修復科では4年間をかけて、木製品・日本画・染織品・洋紙・文書など複数の分野の修復と、それを支える保存科学を実践的に学びます。油彩画修復をはじめとする各分野の学びは、保存修復科の学科ページで紹介しています。カリキュラムや時間割、進路の方向性は、資料請求でより詳しく確認できます。

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