美大生や専門学校生の就職活動において、履歴書以上に合否を左右する重要なツール。それが「ポートフォリオ」です。
「いつから作り始めればいいの?」「どんな作品を入れればいい?」「ページ数は?」
初めてのポートフォリオ制作は、わからないことだらけ。中には、単に過去の作品を並べただけの「アルバム」を作ってしまい、書類選考で落ちてしまうケースも少なくありません。
今回は、数多くの学生をクリエイティブ業界へ送り出してきた東洋美術学校(東美)のキャリア支援の視点から、「採用担当者が本当に見ているポイント」と「失敗しないポートフォリオの作り方・5つのステップ」を徹底解説します。
そもそもポートフォリオとは?「作品集」ではない
多くの学生が誤解していますが、就職活動におけるポートフォリオは、単なる「自分の好きな作品を見せるアルバム」ではありません。
正解は、「あなたのスキルが、企業の課題をどう解決できるかを証明する資料」です。
「作品のアルバム」と「ポートフォリオ」の決定的な違い
教育工学やキャリア形成の理論において、ポートフォリオ評価は単なる成果物の提示(Showcase)だけでなく、「プロセス(思考過程)の可視化」が重要視されています。
- アルバム: 結果(完成した絵)だけを見せるものは、「絵うまいね」で終わる。
- ポートフォリオ: なぜその絵を描いたのか? 誰に向けたものか? 制作中にどんな問題にぶつかり、どう解決したか? という「思考のプロセス」が含まれているもの。
採用担当者が見たいのは、完成品だけでなく、この「プロセス」です「この学生が入社したら、問題にぶつかった時にどう対処するだろうか?」という未来の働き方を、ポートフォリオを通してシミュレーションしているのです。
企業の採用担当者は多忙です。人気企業であれば、数百冊のポートフォリオを短期間でチェックしなければなりません。1冊を見る時間は「平均3分程度」とも言われています。つまり、最初の数ページをパラパラとめくった瞬間に「この子には力がある」「会って話を聞いてみたい」と思わせなければ、その先は見てもらえないのです。
採用担当者がチェックしている「3つの視点」
では、プロの採用担当者は具体的にどこを見ているのでしょうか?
大きく分けて3つのポイントがあります。
1. 基礎画力・技術力
最も基本的な部分です。「デッサン力はあるか」「色彩構成は適切か」「PhotoshopやIllustratorなどのツールを使いこなせているか」。
即戦力として最低限必要なスキルレベルに達しているかがチェックされます。
2. 発想力・企画力・思考プロセス
完成したビジュアルが綺麗なだけでは不十分です。「なぜそのデザインにしたのか?」「誰に向けたものか?」といった制作の意図が重要です。
ラフスケッチやアイデア出しのメモ、制作過程(プロセス)を載せることで、「考える力」をアピールできます。
3. 熱意・人間性・丁寧さ
「レイアウトは見やすいか」「誤字脱字はないか」「画像の解像度は適切か」。ポートフォリオ自体が一つの「作品」です。これらを丁寧仕上げているかどうかで、仕事に対する姿勢や熱意、相手への配慮(コミュニケーション能力)が判断されます。
業界別!採用担当者が見ている「評価基準」の違い
「ポートフォリオ」と一言で言っても、業界によって求められる「正解」は全く異なります。
ゲーム業界志望なのに、デザイン業界向けのポートフォリオを作っていては、どんなに画力があっても書類で落ちてしまいます。
| 評価軸 | ゲーム業界 (イラスト職) | デザイン業界 (広告・Web) | 編集・出版業界 |
|---|---|---|---|
| 最重要視 | 基礎画力・デッサン力 | レイアウト力・文字組み | 世界観・オリジナリティ |
| 見たいもの | キャラクター、背景、厚塗り、設定画 | ポスター、ロゴ、Webサイト、冊子 | 挿絵、カバーイラスト、漫画 |
| 評価ポイント | 指定された絵柄に合わせて描けるか (適応力) | 情報を整理して伝える力 (解決力) | 読者を引き込む魅力があるか (作家性) |
| NG例 | 自分の好きな絵柄だけで構成されている | 余白や文字の扱いが雑 | 媒体(本やサイト)でどう使われるか想像できない |
東美の「マッチング理論」:採用担当者が見ているのは「自社の業務内容とのマッチング度」です。
例えば、重厚なPC重視のファンタジーRPGを作っている会社に、ポップで可愛いカジュアルゲームの絵柄のポートフォリオを送っても評価されません。「相手(企業)が何を作っているか」を徹底的にリサーチし、その企業に「刺さる」作品をトップに持ってくる。これが「ポートフォリオ・マーケティング」の基本です。
失敗しないポートフォリオの作り方【5ステップ】
ここからは、実際に作成する際の手順を5つのステップで解説します。
STEP 1: コンセプトを決める(誰に、何を伝えたいか)
まず、「どの業界・職種に応募するか」を明確にしましょう。
- ゲーム会社(イラスト職): キャラクターデザイン、背景、デッサン、塗りなど、画力を前面に押し出す。
- 広告・デザイン会社: 文字組み、レイアウト力、情報の整理能力をアピールする。受ける企業によって、求められるスキルは異なります。「誰に」「何を」伝えたいかを決めずに作り始めると、焦点のボケたポートフォリオになってしまいます。
STEP 2: 作品を選定する(自信作だけを入れる)
手持ちの作品をすべて詰め込む必要はありません。ここでの鉄則は「量より質」です。10点の作品があっても、その中に1点でもクオリティの低い作品(ノイズ)が混ざっていると、全体の評価が下がってしまいます。「自信のある作品だけを入れる」勇気を持ってください。
また、学校の課題だけでなく、自主制作(プライベートワーク)を入れると、「本当に作ることが好きなんだな」という熱意が伝わり、高評価につながります。
STEP 3: 構成・レイアウトを考える(リズムを作る)
一般的には、A4またはA3サイズで、クリアファイル(差し替え可能)や製本形式で作成します。
- 1ページ目(または冒頭)に「最強の作品」を置く: 最初のインパクトが勝負です。
- 見開き完結を基本にする: 本を開いた状態で、ひとつの作品やプロジェクトが完結するようにレイアウトすると、リズムよく見てもらえます。
- 尻すぼみにならない工夫: 最後の方にも自信作を配置し、読後感を良くしましょう。
STEP 4: プロフィール・スキルシートを作成する
作品だけでなく、あなた自身の情報も重要です。巻末や表紙の裏などに記載しましょう。
基本情報: 氏名、学校・学科名、連絡先、活動があるならSNS情報も
スキル: ソフト(Illustrator, Photoshop, Live2Dなど)、使用歴(○年)、使用PCのOS・スペック
自己PR: 得意なジャンル、これから挑戦したいこと、趣味など(人柄が伝わります)
STEP 5: 第三者に見てもらう(フィードバック)
これが最も重要です。完成したら、友人、先生、キャリアセンターの先生など、必ず第三者に見てもらいましょう。自分では「完璧」と思っていても、初めて見る人には「意図が伝わらない」「文字が小さくて読めない」といった問題点があるものです。客観的な意見を取り入れ、ブラッシュアップを繰り返しましょう。
【図解】内定を取るポートフォリオの構成例

「良いポートフォリオ」と「悪いポートフォリオ」の違いは、情報の「深さ」にあります。
左:アルバム型(NG例)
完成した絵を大きく並べただけ。画力は伝わりますが、「どんな考えで作ったのか」が全く分かりません。これでは、AIで生成した画像と区別がつきません。
右:プロセス型(OK例)
メインビジュアル:最終的な完成形。
コンセプト・使用ツール:「なぜこれを作ったか」「制作時間」「使用ツール」を明記。
プロセス(ラフ・バリエーション):思考の試行錯誤を見せるエリア。「A案とB案で迷って、なぜA案にしたか」というメモがあると、採用担当者はあなたの「判断力」を評価できます。
採用担当者が本当に見たいのは、右側の「思考のプロセス」です。これを意識するだけで、あなたのポートフォリオの説得力は何倍にもなります。
紙ポートフォリオ vs Webポートフォリオ、どっちが必要?
結論から言うと、「両方用意するのがベスト」です。
- Webポートフォリオ: エントリー(応募)段階でURL提出を求められることが増えています。「ViViViT」などのポートフォリオサービスを活用するのも有効です。
- 紙のポートフォリオ: 面接当日に持参し、プレゼンテーションに使用します。紙の質感や印刷へのこだわりもアピール材料になります。まずはWebで広く見てもらい、面接で紙を使って深く伝える。この二段構えで準備しましょう。
まとめ:独りよがりにならないために
ポートフォリオ作りで一番大切なのは、「見る人(企業・採用担当者)のことを考える」という視点です。
「自分が作りたいもの」だけでなく、「相手が見たい情報」が入っているか。その視点を持つだけで、あなたのポートフォリオはぐっと魅力的になります。
東洋美術学校では、キャリア支援センターや担任講師がマンツーマンでポートフォリオ添削を実施しています。

「何から手を付ければいいかわからない」「自分の作品の強みがわからない」という方は、ぜひオープンキャンパスや学校見学で相談してみてください。プロの視点で、あなたの「見せ方」を引き出します。
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