東洋美術学校 保存修復科では、2020年に文化庁の支援事業の一環として、ちばてつや作『あしたのジョー』ラストシーン原画の保存状態調査を実施しました。マンガ原画という現代の文化資料を保存対象とした、本校の象徴的な研究の一つです。本記事では、当時の調査内容と成果をあらためてご紹介します。
調査の背景
本調査は、文化庁の支援事業として実施されました。文化財として保存対象になることが少なかったマンガ原画を、専門的な保存修復の視点から検討した取り組みです。本校保存修復科は、油彩画・日本画・染織品・木製品・洋紙・文書の6分野を中心に、現代の文化資料も視野に入れた保存修復研究に取り組んでおり、本研究もその一環として位置づけられます。
調査手法

調査では、原画の保存状態を詳細に把握するため、斜光線撮影を用いました。斜光線撮影は、紙面に対して斜めから光を当てることで、肉眼では判別しにくい微細な凹凸や折れ、変形などを可視化する手法です。原画の物理的な現状を客観的に記録するための基本的な調査技法のひとつです。
主な発見
斜光線撮影により、ラストシーン原画には以下のような物理的変化が観察されました。
- 表面の波打ち状態
- 折れ
- テープ跡
- 多数の小さなしわ

劣化の主な原因
研究チームは、観察された劣化の主な要因として以下を指摘しました。
- 裏面に使用されていたボード紙からの酸性物質の移動
- 粘着テープによる固定と、温湿度変化に伴う繰り返しの膨張・収縮
これらは、長期保存を前提としていない素材構成によって生じるもので、紙資料の劣化要因として一般的にも知られている現象です。マンガ原画においても同様の劣化メカニズムが働いていることが、調査により確認されました。

研究チームの方針
研究チームは、支持体としての原稿用紙の機能を維持することの重要性、および「予防保存対策」の必要性を強調しています。劣化が進んでから修復を行うのではなく、適切な温湿度管理・中性紙への置き換え・接着材料の選定など、事前の対策によって資料の寿命を延ばすという考え方です。今後も技術改善に取り組む方針が示されました。
本校保存修復科について
本校 保存修復科(4年制・高度専門士課程)は、油彩画・日本画・染織品・木製品・洋紙・文書の6分野における保存修復技術を、実習と座学の両輪で学べる学科です。本研究のような外部機関との連携プロジェクトや被災資料レスキューへの参加など、現場に即した研究・実践機会を持つことが特徴です。
原典:東洋美術学校『あしたのジョー』ラストシーンの保存状態調査の結果を公開|保存修復科(4年制)の研究結果まとめ(PR TIMES, 2020年8月21日)
本記事は当時のプレスリリースをもとに、研究内容をあらためて紹介するものです。


