AIを「使う」のではなく、「定義」する。──東洋美術学校「エクスペリエンスデザイン」の授業

東洋美術学校 エクスペリエンスデザイン。AIとともに、デザインを定義する。 TOPICS

「この授業の評価は、成果物の質だけで決めます。ただし、AIが出したものをそのまま提出することは認めません」——東洋美術学校 クリエイティブデザイン科の4年制専攻には、こんな一文から始まる授業があります。その名も「エクスペリエンスデザイン」。生成AIを教室から締め出すわけでも、AIに丸投げするわけでもありません。AIを制作のパートナーとしてとことん使いながら、最後の判断は人がくだす——。担当するのは、デザインコンサルティング会社OVERKASTを率いる大林寛先生です。

まず、授業の「進め方」そのものが新しい

エクスペリエンスデザインの授業のルーティン図。講師と学生がそれぞれAIに学習させ、講義ノートや制作物を生成・編集する流れ。
この授業のルーティン(大林寛先生 提供資料)

この授業には、毎回くり返される決まった流れがあります。

  • 講師は、シラバスとスライドを自分のAIに読み込ませ、そこから講義を組み立てる。
  • 授業では、ホワイトボードと録音を文字起こしし、AIで整理して「講義ノート(Markdownファイル)」にまとめ、学生に配る。
  • 学生は、その講義ノートと「Project Instructions(AIへの指示書)」を自分のAI(授業ではClaudeを推奨)に読み込ませ、レポートやアプリ、プロダクトの制作に活かす。

ここでのAIは、調べものに使う便利ツールではありません。講師にとっても学生にとっても、制作の土台となる“環境”そのものとして組み込まれています。評価されるのは、あくまで最終的な成果物の質。とはいえ、AIが出したものをそのまま出すことは認められません。

授業の芯にある考え方——「AIを使いながら、AIに任せない」

Project Instructionsには、AI(Claude)に“あえてさせないこと”まで書き込まれています。

  • 「これが正解です」と言い切らせない——デザインに、唯一の正解はないから。
  • 課題をそのまま提出できる完成品として出させない——AIが出すのは素材であり、たたき台。人が手を入れて、はじめて課題になる。
  • ただほめるだけのフィードバックをさせない——批判的な視点を、いつも残す。

この授業がいちばん大切にしているのは、「AIが出してきたものの、どこが違うのか」を自分の言葉で言える力です。出力をそのまま受け取るのではなく、それを疑い、批評する目を持つこと。そしてその目は、自分の手を動かした観察と経験の積み重ねからしか育ちません。

大林先生は、この姿勢を「AIを使いながら、AIに任せない」と言い表します。AI時代のデザイナーは、アプリを操作する人ではなく、“何を、どう作るのか”という制作のしくみそのものを定義する人になる——授業は、その未来像を先取りするように設計されています。

学生は、AIをこう使う

使い方は「調べる」ことだけではありません。学生向けのガイドには、たとえばこんな使い方が挙げられています。

  • わからなかったところを、整理せずそのままぶつける(「うまく質問しようとしない」——感じた違和感を、そのまま言葉にする練習として)。
  • 講義ノートを「ラジオ番組風の原稿」に書き直してもらい、通学中に耳で復習する。
  • 覚えたいキーワードのフラッシュカードや理解度クイズを、その場で動くアプリ(ClaudeのArtifact)として作ってもらう。
  • レポートは、いきなり書かせない。自分で書いた文章を読ませ、「授業の文脈と矛盾している所、曖昧な所を指摘して」と頼み、自分の手で書き直す。

大林先生は言います。「言葉の精度が、そのまま出力の精度になる」。そしてAIは授業の代わりではなく、授業のあとに自分の身体を通して考え直すための、“もう一人の相手”なのだ、と。

たとえば「アフォーダンス」——意味は、動くなかで立ち上がる

授業で扱うテーマのひとつが「アフォーダンス」です。心理学者ジェームズ・J・ギブソンが1979年に提唱した考え方で、環境が人にそっと差し出す「行動の可能性」を指します。

丸くて出っぱったボタンを見ると、つい「押せそう」と感じる。段差がならんでいれば「のぼれそう」と体が動く。取っ手を見れば「つかめそう」と手が伸びる。こうした感覚は、頭で考えるより先に、動きのなかで生まれています。だとすれば、デザインとは「意味が立ち上がる条件」をつくる仕事だと言えます。形を美しく整えるだけでなく、その形がどんな行動を呼び込むかまで設計する——それがデザインなのだ、というわけです。

大林先生は、このアフォーダンスをテーマにした学習まんがの原作・監修も手がけてきた、いわば語り手のひとり。そして授業では、そのアフォーダンスを“体験”できるWeb教材が、学生自身の手で生まれました。

それは、スクロールしながらアフォーダンスを“体で”たしかめられる1枚のWebページです。さきほどの「押せそう」「のぼれそう」という感覚を、画面のカードにカーソルを重ねて確かめたり、枠のなかでマウスを動かすと、その動きに色の軌跡がついてきたり。読むだけでなく、触れると反応が返ってくること自体が説明になっています。「意味は、見るより先に動くなかで立ち上がる」——この章のテーマを、そのまま形にした教材です。学生がAIを使って、こうした“動く教材”まで自分でつくり上げる。それが、この授業のふだんの風景です。

講師:大林寛(おおばやし ひろし)先生

株式会社オーバーキャスト(OVERKAST)代表。エクスペリエンスデザインとデザインコンサルティングを専門とし、デザインを思想として読み解くウェブメディア「ÉKRITS/エクリ」を主宰しています。学習まんが「アフォーダンス」の原作・監修なども手がける、この分野の第一線の実務家です。企業のブランディングやサービス設計に日々携わるプロが、その現場の視点のまま教壇に立っています。

学べる場所と、卒業生のことば

この授業は、クリエイティブデザイン科 高度コミュニケーションデザイン専攻(4年制)で開講しています。

サイバーエージェントにデザイナー総合職として内定した卒業生も、インタビューのなかで、大林先生の「エクスペリエンスデザイン」の授業を通して「デザインとは何か」「コンセプトはどう作用するのか」を学んだ、と振り返っています。

AIとともに、けれどAIに流されずにデザインを考える。その現場を、あなた自身の目で確かめてみませんか。

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