『マンガ原画アーカイブセンター(仮)』創設に向けたシンポジウム開催レポート!本校はマンガ原画の健康状態を可視化する評価方法について報告

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2019年2月3日(日)に、秋田県横手市で表題のシンポジウムが開催されました。東洋美術学校は平成29年度より、文化庁委託事業「メディア芸術連携促進事業」連携共同事業に参加しており、本年度は「マンガ原画に関するアーカイブ(収集、整理・保存・利活用)および拠点形成の推進」における連携機関として、保存科学の観点から原画用紙の健康状態を評価する方法についての研究を行ってきました。本事業の一環として行われたこのシンポジウムに登壇した小野より、このプロジェクトで何が議論されているのかお伝えしたいと思います。

急速に変化するマンガ原画を取り巻く環境

シンポジウムは2部構成で行われ、第1部では各連携機関より事業の報告が行われました。まず、メディア芸術連携促進事業の前身であるメディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業からそのグラウンドデザインを描いてきたプロジェクト推進オブザーバー 京都精華大学マンガ学部教授の吉村和真氏からは、本事業の根幹となる「緊急性」「具体性」「持続性」「協働性」「価値創造性」の5つの柱についての説明がありました。昨年はフランスのオークションで手塚治虫さんの原画が3500万円で落札されるニュースが報じられましたが、マンガ原画を取り巻く環境はここ数年で急速に変化しています。戦後のマンガ文化を支えてきた多くの漫画家の高齢化により作品の維持管理が難しくなっている状況に加え、国内での文化資源としての認識が定まらない中、マンガ原画は“第二の浮世絵”にも例えられる海外散逸の危機に瀕しており、その緊急性は高まるばかりです。本事業では保存活用の具体的なケーススタディを積み上げつつ、運営形態の異なる連携機関同士が互いに協働しながら、100年後にも継続可能なネットワークの構築と人材育成を目指した活動を行っていきたいということでした。

求められるデジタルアーカイブによる利活用の可能性

次に明治大学米沢嘉博記念図書館のヤマダトモコ氏からは鈴木光明さんの原画整理と、三原順さんの原画の所在調査について報告がありました。北九州市漫画ミュージアムの表智之氏からは自治体直営のミュージアムとしての運営ノウハウや原画の初出調査について、京都国際マンガミュージアムの倉持佳代子氏からは精巧な複製原画である「原画ダッシュ」についての報告がありました。どちらもデジタルアーカイブによる利活用の可能性について言及されました。また2017年に逝去された谷口ジローさんの版権を管理されている一般財団法人パピエの原正人氏からは、谷口ジローさんの原画整理やデジタルアーカイブについて、また海外における展示会の可能性についての報告があり、各連携機関の取組みと問題点が共有されました。

本校は大量のマンガ原画の健康状態を可視化する新しい評価方法について報告

最後に東洋美術学校からは、5月にリニューアルオープンを控える横手市増田まんが美術館のこれからに焦点を当て、収蔵されている大量のマンガ原画の力学的強度や様々な物性値を、いかに迅速に非破壊で予測することができるのか、多変量解析の手法を使った健康状態の新しい評価方法についての研究報告を行ってきました。
第2部では、表題にある「マンガ原画アーカイブセンター(仮)」の設立に向けた議論が行われました。まず横手市増田まんが美術館の大石卓氏から、美術館の改修工事に至るまでの経緯と新しく生まれ変わる美術館運営のコンセプトについてのお話がありました。マンガ原画とその周辺環境を一本の大樹に例え、漫画家や出版社とのきめ細やかな交流や、原画保存やアーカイブ作業といった地中深くにあり木を支える根っこの部分にしっかりと取り組むことで、観光や教育、海外誘客といった幹や枝葉として目に見える部分を享受することができるようになるだろうとのビジョンをお聞きしました。また新しい美術館の収蔵能力は70万点ともなり、恐らく実質的には横手市増田まんが美術館が原画保存のナショナルセンターとして機能していくことになるだろうとの意見も出されました。

「マンガ原画アーカイブセンター」の想定される5つの機能とは?

また吉村氏からはアーカイブセンターに想定される5つの機能として、「受信する」「処方する」「育成する」「連携する」「発信する」についての解説がありました。この中で特に「受信する」と「処方する」について、京都大学大学院人間・環境学研究科の日高利泰氏から、センターの役割と相談のフローチャートが示されました。
次年度の同事業では、このアーカイブセンター構想をより具体化していくことになりそうです。東洋美術学校は引き続き、マンガ原画の現物保存にこだわっていきたいと思います。原画保存の聖地になるであろう横手市増田まんが美術館との連携をより密接にしながら、文化財修復の教育機関として蓄積してきたノウハウを最大限に生かし、引き続きマンガ原画の保存対策に寄与していきたいと考えています。


本校4年制保存修復科についてはこちら /course/hs/
本事業についてのお問い合わせ先 project@to-bi.ac.jp(担当:産学連携事務局 中込)

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